ひとでなしの恋 4




 凛は、検診には二度しか行かなかった。体調を悪くして病院に行き、妊娠が発覚した一度目と、自分の腹は異常ではないかと思い、四ヶ月の頃に行った二度目だ。
 普段から忙しく、凛が病院に行ったかどうかなど知らない征一は母子手帳を見たことがない。なので、子どもの状態など知らなかった。
「んっ、ふ…んぁあああ……っ」
 いきんだ凛がはぁはぁと荒い息を繰り返すのを見ながら、征一はよくもこんな細い体で、と思っていた。
 凛は元が細い。身長も低いほうで、150あるかないかだ。そして、年齢も若い。征一は適齢期で現在24だが、凛は実は16だった。売られたときはまだ15だったのだ。
 まだ、成長途中の体。当たり前に、骨格も出来上がっていないところがある。
 凛の場合、骨盤が狭かった。なので下手をすれば帝王切開を、と医者には言われていたのだが、凛はそれを誰にも伝えないでいた。
「っん、ア、ぁうぅうぅううううぅ…っ」
 限界まで開かれた股間と、降りてくる赤ん坊に耐えかねている腰が、みしみしと音をたてて折れそうだ。
 死にやしないかと征一が思った頃、遅れに遅れて凛が破水した。プツッとかすかな音がしたかと思ったら、ドバッと大量の羊水が膣から噴出して畳を濡らした。
「おお、破水したな」
 溢れて畳も布団も濡らした羊水に征一が歓声をあげるのに凛は薄く目を開くと、はっ、はっ、と短い息を吐いた。
「征一さ、ん、あんな、湯、湯もろてきて…。赤ん坊生まれたら、洗ってやらな…」
「忘れとったな。待っとれや、今持って来たるからな」
 よしよしと凛の頭を撫でると、征一はどっこいしょと立ち上がり、部屋を出て行った。
 広い畳部屋に一人になり、凛は強く息む。
 降りて来ている感覚はある。しかし膣口が狭くて出て来れないのだ。
 何時間でも、凛は耐える自信はある。
 何時間でも何日でも痛みに耐えて、生んでやりたい。誰でもない、征一と凛の子を。
 しかし、それほどの体力は子どもにはない。
 一刻も早く生んでやらないと、死んでしまうかもしれない。
「ぅん、んん…っは…早う…早う生まれて来や。あぁうっ…ええ名前、付けたるから…」
 そっと腹を撫でる。
 遠くから聞こえる喧騒は、征一と凛を祝うものだ。
 今はまだ凛の腹の中にいる子が生まれれば、喧騒は歓声に変わるだろう。
 それを思い浮かべながら、凛は一際強く息を詰めた。




 征一が湯桶を片手に戻ってくると、凛の腰から下に敷かれた布は赤く染まっていた。
「なんや、どないした」
 飽くまで冷静に問いながら湯桶を下座に置くと、凛は強く瞑っていた目をうっすらと開いた。
「ちょっと切れただけや…。征一さん、見える?
 頭、出とるんよ」
「ほんまか?
 どれ」
 震える膝を大きく開いている凛の股間にまわると、征一は赤く染まっている性器を見やった。
 上下左右が切れてしまっている膣口から、黒い頭が覗いている。
 直に産まれるだろうと、素人ですら予測できるほどになっているそこを見て、征一は目を細めて笑った。
「もう産まれるで。気張れや、凛。生まれたやや子は、高槻の次代にしたるからな」
「ん…っ」
 年の割には全てを悟ったような、大人びた顔を歪ませて凛がいきむ。
 ぎし、と自分の骨盤が悲鳴をあげるのを無視していきむと、次の瞬間、華奢なからだから、ずるりと大きな赤ん坊が産まれた。
「おお、元気なのが生まれよった」
「征一さん、洗てあげて。湯、持ってきたんやろ」
「そやな」
 はぁはぁと荒い息を繰り返しながらも凛が言うと、征一ははは、と笑い、ふぎゃふぎゃと産声を喚き散らす赤ん坊を抱き上げて湯につけた。
 それを見ながら、凛は自分の腹を見た。
 検診にはほとんど行かなかったが、わかっていた。
 ひとりを生んだのに、まだ張っている腹。
 双子なのだと、わかっていた。
「征一さん、やや子、見ててな…」
「おう」
 征一に任せておけば大丈夫と踏んで、凛は再度いきんだ。
 ひとりを出して、すっかり疲弊した体は、度重なる激痛に悲鳴をあげている。それに、裂けた箇所からの出血のせいか、僅かに視界が揺らぐ。
 気を失ってしまう前にと無理をしていきみ、破水を繰り返し、会陰からおびただしい出血をしながら、自分の胎内を擦って降りてくる体を感じ、凛は僅かに微笑んだ。








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うまれました。
なんやかんやでまた双子…や、フェチとかじゃないですよ…?


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