ひとでなしの恋 3




 母はいつも、微笑んでいた。
 声を立てて笑うことも、大きな身振りで相手を騒がす事もせず、ただ静かに微笑んでいた。
 なぜにそんなに静かに笑うかと聞くと、
「征一さんが、笑え言うたから」
 と、また微笑んでいた。
 



 和柾に認められてから一月後、征一と凛は挙式をした。
 来月は生まれ月なので、生まれてしまう前にと急いだので突然だったが、当人たちには焦る様子もなく、征一は一日一日を忙しくすごしながらも暇なときがあれば凛と共に過ごし、凛は日毎に大きくなっていく体を休めながら、忙しさの合間を縫って自分の下へ来る征一を癒していた。
 挙式は身内のものではあったが、傘下組の頭やらなんやらが呼ばれていたためか盛大なものになった。
 大きな腹を抱えて神前に頭を下げた凛を皆は祝福し、その日から凛は高槻凛になった。
 本来なら挙式の後は新郎新夫を交えての宴会が行われるが、凛の体調を慮って、征一は早々に自室に引き上げた。二人きりになってから、凛はそっと征一に寄った。
「若…」
「なんや、今日からは征一呼べ言うたやないか」
 疲れたと言いながら畳に座っていたところに寄って来た凛に気付くと、征一は手を伸ばして凛を抱き寄せた。その腕に従うように身を任せながら膝に座り込んだ凛は、そやった、と言いながら征一の胸にもたれた。
「どないした、疲れたか」
 珍しくしなだれかかってくる凛の綺麗に結い上げた髪を指で漉きながら征一が問うのに、凛は横に首を振った。
「陣痛が来とるみたい…」
 結納の最中から、陣痛は始まっていた。
 ズキン、ズキン、と響く痛みは時間が経つに連れて間隔を狭めてきている。破水をしないようにとそろそろと動いていたおかげで破水はまだだったが、痛みは限界に近い。
 生まれそう、と訴えると、征一は一瞬面食らったように瞬きをしたが、はぁ、と熱い息を凛が吐き出すと、わかった、と頷いた。
「布団しいたるから、待ちや、な?」
「ん…っ」
 ゆっくりと、壊れ物を扱う仕草で征一は凛を畳に降ろすと、布団を引き出して畳に敷き、枕もとに掛け布団が畳まれた物を何枚も置いた。
 そして凛を抱き上げると、そこに寝かせた。
「白無垢はええもんやけど、今は邪魔やな…とりあえず帯は取るか」
 腹を締め付けるものはいけないだろうからと征一は帯を取ると、白無垢の上掛けも脱がした。ついでにと着物をはだけさせると、襦袢の帯も解いて胸も腹もあらわな姿にさせる。
「他にあるか、凛」
 徐々に間隔が短くなってきた痛みに荒い呼吸を繰り返す凛の傍に座り込むと、征一はうっすらと化粧を施した顔を見つめた。
「手…手触て…」
「おう」
 小さな願いを叶えてやるべく手のひらを征一が握ると、凛はほのかに口元を綻ばせた。
「綺麗やなぁ、お前は。赤ん坊生まれそうや言うても綺麗や」
 娶ったばかりの妻の美貌にうっそりとした笑みを浮かべると、征一は凛の髪をつかんで唇を寄せた。
「気張れや。俺のやや子を産むんはお前だけや」
 ただ、お前ひとり。
 その中の真意を見極めていっそう嬉しげに凛は笑むと、そやね、と小さくつぶやいた。








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うまれますー。
次回にすっぽんとうまれますー。


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