killing you softly 01
茅原智也は、クラスでも大分浮いた存在だった。彼自身がよくわかっており、なぜ浮いているか、理解もしていた。
それが、金髪に染めた髪や小ぶりな耳に光るいくつものピアスのせいだけでもないことも、知っていた。
「ちょっと、来いよ」
怒りを無理矢理抑えつけて、けれどその飛沫は耐えようもなく零れ落ちているような、そんな声だった。
周囲が終わっていない課題の写しだ、指名されるかもしれないから予習だとざわめいている中、ひとり勉学とは一切関係のない書籍を開いていた志方利永(しかたとしなが)は、左斜め前から喧騒の空隙を縫って耳に届いた声に、僅かに顔をあげた。
視界の先には、明らかに一年生の教室には浮いた様相の上級生が三名と、苛立ちに満ちた横顔に囲まれている、金髪のクラスメイトが映った。
「…いやだ」
小さな声で、金髪が答えた。それは駄々を捏ねるとか、そういった響きではなく、断言だった。
「いやだじゃねえよ、来いっつってんだよ」
「休み時間終わるだろ、帰れよ。次数学なんだよ」
「お前が大人しく授業聞くって? 馬鹿言うな、行くぞ、屋上」
細い腕を上級生の男が掴んで引き摺る。金髪は嫌がるように眉を険しく顰め、けれどそれ以上は抗わずに立ち、舌打ちさえしながら教室を出て行った。
(―――…あいつ…なんだっけ)
ものを覚えるのは得意だが、人の顔をいちいち認識して判別するような無駄なことに特に興味を覚えない利永は、そのまま視線を書籍に戻した。数分もせずに始業の鐘が校内中に鳴り響く。
読みかけのページの狭間にしおりを落とし、机にしまったところで、脳裏にやっと、帰ってこない金髪のクラスメイトの名前が浮かんだ。
(茅原智也だっけ)
まあ、俺には関係ないけど、と言葉にすら出さずに心中で呟いて、利永はそれきり茅原智也を意識から除外した。
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