Robinson's cherry 25



















 直径が五十メートルほどのその島は周りを木の柵に囲まれていた。二島目に続く橋と一カ所だけある桟橋の所だけ柵がなかった。裏庭に小さな家庭菜園を持つ家が三軒と小さな倉庫だけがその島の建造物で、ちらほらと住民が見えた。
 見慣れない旅人を不審そうに見ていた住人だったが、やはりこの星の住人らしくすぐに笑顔で寄ってきた。
「旅人さん。どこの島へ行くの?」
 柵の側にある二本の木に多分なにかの動物の腸を捩って作ったであろう紐を渡して洗濯物を干していた心性種が、籠を片手に笑顔で話しかけてくる。風に凪ぐ色鮮やかな腰布はグランシー街の特産品だ。
「二島目の鍛冶屋に。人を捜してるんです」
「そう。どんな人?」
「金髪の…ジンギョ族です」
「まあ金髪。そうねぇ、捜し人なら鍛冶屋に訊いた方がいいわね。あそこの店主なら情報通だもの」
 心性種は籠を降ろすと早く見つかりますようにと、ウォートの手を取った。
「旅の神レイン様、捜し人とどうかめぐり会えますよう…」
 心優しいこの星の住人は見知らぬ旅人のために祈りを捧げると、がんばってねと笑って手を振った。
「ありがとう」
 祈りの捧げられた手を振り返し、二島目へ架かる橋を渡る。
 二島目は店と家が隣同士に並んでいるだけだったが、店の客が狭い島にちらほらといて、さっきの島よりは騒がしかった。
「すいません」
 店とはいっても玄関もなにもなく、ガレージを開け放したままのような店先を覗くと、武器を手にした数名と、一心不乱に火に焼けた金槌を振り下ろす鍛冶師がウォートの方を振り向いた。
「いらっしゃいませ」
 背後で愛らしい声があがり、振り向くと、茶色い髪をおさげに結った心性種が笑顔で立っていた。
「あ、あの、人を捜しているんですが、ここで訊いたらいいと言われて…」
「でしたらこちらにどうぞ」
「すいません、これがすんだら行きますんで」
 強面の鍛冶師は軽く頭を下げて、また作業に没頭し出す。
 おさげの心種に案内されて店先から店内へとはいると、中は多くの武器が飾られていて、大剣から小突槍、懐剣が所狭しと並べられている。店の奥と店内を仕切っているのは木のカウンターで、数十枚と思われる、手のひら大の紙の束がまとめて置いてあった。その脇に、羽ペンとインク壺。
「どうぞ、お座りになってお待ち下さいね」
「はい」
 カウンターから椅子を引っ張ってきてウォートに進めると、心種はいったん店の奥へと引っ込み、冷水の入ったゴブレットを持ってきた。
「あ、おかまいなく…」
 ウォートが頭を下げると心性種はくすくすと笑って、冷水ですが、と置いた。
「人を捜してるんですよね」
「はい」
 ウォートと向かい合わせに座って心種はカウンターに置いてあった紙の束から白紙の紙を取ると、脇にあった羽ペンをインク瓶につけて、紙に『人捜し』と書いた。かつん、と羽ペンの先で紙をたたく。
「何族です?」
「ジンギョ族です。未分化の…」
「名前は?」
「澪・フラルーエ」
「歳は?」
「十六歳です」
 そこまで書いた頃、店先から響いていた鉄をたたく音が止んだ。
「特徴はありますか? 何でもいいですよ、髪の色とか目の色とかでも…」
「髪は薄い金色、目は青です。歩くのが苦手で…もしかしたら踝の辺りの皮膚が引きつれてるかもしれません」
「引きつれ?」
「鱗を剥がしたようなんです」
 これを、とポケットから布に来るんだ鱗を出してみせると、ああ、と心種は笑んだ。
「ジンギョ族の鱗を持っていると幸せになれるそうですからね。恋人ですか?」
「…あ、まあ、…はい…」
 曖昧な関係。
 どう応えたらいいのかわからず取り敢えずウォートが頷くと、店内に鍛冶師が入ってきた。灼けた顔を手ぬぐいで拭き、お待たせしました、とカウンター側にまわる。
「捜し人ねえ…」
 軽く頷いて、鍛冶師はメモをつまみ上げた。
 ちらりとカウンターにのった鱗を見て、ええと、と宙を見た。
「確か向こうの方から歩いてくるのを、二三度見てますよ。足はどうだか覚えていませんが…見事な金髪は覚えてます。まっすぐな髪ですよね、ウェーブのかかっていない」
 いいながら指した方向は、次の島へと続く橋だ。
「月に二度ほどしか見ませんが…今月はもう二度見てますね」
「あの…ここから、いくつほど家はありますか」
 ほぼ澪に間違いないと確信して高鳴る心臓を押さえながらウォートが言うと、鍛冶師はそうですね、と心種の顔を見た。
「千二百三十軒ほどじゃないですか。宿屋や店舗も含めて」
「千二百三十…」
 途方もない数だ。ウォートのいた星では少ない戸数だが、歩いて訊ねて行くには多い。
 思わずウォートが呟くと、大丈夫ですよ、と鍛冶師が笑った。
「一つの島につき一軒に聞けば大体わかるはずですよ。多くても十軒ほどしか一つの島にはありませんから」
「はあ…あの、最後の島まではどのくらいありますか」
 もし相当あるならいったんリンチュエイまで戻って馬を借りてくるつもりでウォートが問うと、鍛冶師はそうですね、と呟いた。
「ここからなら五十キロほどですか。途中長い橋もありますからね、大きな島もありますし。歩きながらの探索なら三日もあれば最後の島まで行けますよ」
 ウォートも鍛え抜かれた元軍人だ。澪に会えるなら五十キロ歩くのなど苦でもない。路金もある程度なら持っているし、時間だって余りある。
 鍛冶師の言葉に馬は要らないかと思い、ウォートはありがとうございましたと頭を下げた。
「捜してみます」
「こちらでも今度澪さんが通ったら伝えておきますよ」
「ありがとうございます」
 親身になってくれる鍛冶師に心底感謝しながら礼を言うと、ウォートは降ろしていた荷物を肩にさげた。
 まだ時間は昼をまわったばかりだ。島が五十キロ先まで続いているなら、今すぐにでも出発して、少しでも早く澪を探し出したい。
 焦りながら立ち上がったウォートにそこまで送りますよと腰を上げた鍛冶師はしかし、外に出て眉をしかめた。一緒に出てきた心性種も空を仰ぎ、あら、と不安そうに空を見上げる。
「どうかしましたか」
「いえ、…嵐が来そうだなぁ、と。気を付けて下さい、この季節は多いんですよ。突然の嵐。毎年毎年この季節になるとくるんで」
 鍛冶師が苦い顔で言うと、心性種もおさげを揺らして頷く。
「野宿は避けた方がいいですよ」
「はあ」
 心性種の言葉に頷き、ウォートはじゃあ、と片手を上げた。
「ありがとうございました」
「気を付けて」
「野宿は避けて下さいね」
 まるで親兄弟のように心配してくれる二人に感謝しながら、ウォートは二島目を後にした。
 雲の流れがいつもより早くなり始めた日だった。









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