Robinson's cherry 18
正直言って、ウォートは未だに心配ではあった。
もし行って澪に受け入れてもらえなかった場合、自分はどうしたらいいのかと。
自宅は譲り、軍も辞め、家からも出たウォートにはなにも残っていない。オークションで得た金さえあれば一生暮らせるが、それではなにも潤いがない。仕事も出来ず、恋愛を出来る余裕も持てずに暮らすには、一生は長すぎる。
だがそれでもやりきれない思いを抱えたウォートは、行くのをやめる気にはなれず、ただただ出立の日が近づくに連れて募る思慕に、眠れぬ夜を過ごした。
二人目の息子を他の星に行かせることになってしまったブライゼータ夫妻は、青ざめた顔で、飛行場に立った。
晴れた空の下、輝くパーフェクトブルーの機体。
見送りに来たのは元第五艦隊の隊員と一度も指示を仰ぐことなく大佐が辞職してしまった第六艦隊の隊員、そしてクロウ最高司令官もまだ青い顔をした参謀長官と精神安定剤をポケットに入れた十二人の提督を引き連れて顔を出した。あとは両親と八人の弟妹と、アリアとウェイの二人、親友が十五人の総勢四千百十六人。柵の周りには百人ほどのマスコミ関係者もいたが、それは数にいれていない。
これが最後の別れになるわけではないのだからとこころに強く言い聞かせながら、ウォートは両親と抱き合った。
「父さん、ごめん。きっと写真を送るよ」
父は、いつの間にかウォートより細くなった腕で、自分より大きくなった息子を抱きしめて涙をこらえた。
「あまり泣かないで、母さん。いつか…きっと帰ってくる」
息子になだめられても涙を止めることも出来ず、母はただ何度も頷いた。
弟妹全員とそれぞれ抱擁を交わした。ウェイとアリアもそれぞれ抱き合って別れを惜しむ。
「お兄さま、絶対に澪さんと幸せになってくださいな。そうじゃないとわたし、もう一機買ってお兄さまを叱りに行きますからね」
アークとよく似た青い目に、兄ですら初めて見た涙が浮かんだ。抱き合った瞬間、小さな声でアリアが囁く。
「わたしも一つだけ、恋話をして差し上げますわ。わたしの初恋、お兄さまですのよ」
耳を赤くしながら言った妹は、ぱっとウォートから離れて、目元をこすった。入れ替わりにウェイが、腕を広げた。
「アリアは絶対に幸せにするよ」
「約束したからな」
ウォートの唯一の兄は力強く頷いて、強く抱き合い、ウォートも幸せに、と言って離れた。
クロウとも元気で、と抱き合って背をたたき合った。
それぞれ抱擁を求める者とそれぞれ抱き合って別れを済ませ、そして時間になった。
生まれたときから、この時まで、一番長くいた星。自然は少なく、機械ばかりある星だったが、それでも離れると思うと寂しさが募る。
出てきそうになった涙を大きく息を吸って消すと、ウォートはそこにいる全員に、敬礼した。
「みんな、元気で」
精一杯の笑顔と最大限の気持ちを込めて、ウォートは言った。
これ以上思いとどまっていては、思いが残るだけだ。
背をむけると、ウォートは止まらずに、開いた入り口に乗り込んだ。
フィィィイィィン、とかすかな機械音がして、入り口が閉まる。完全にウォートとそのほかの人間が遮断される一瞬前に、アリアが兄にむけて言葉を叫んだ。
「お幸せに、お兄さま!」
ウォートは一瞬だけ振り向いて、手を振った。
まさか六ヶ月と少し前の自分は、自分がまさかシェルサーラに向けて飛び立つとは思っていなかったなと思いながら、ウォートはぼんやりとアークもこんな気持ちだったんだろうかと、操縦席を見つめた。
----------
top ■ next