Robinson's cherry 10













 






 アークは迅速だった。
 長男と共にようやく帰ってきた次男が、唐突にこの星から離れてシェルサーラに行くと言ったせいで卒倒してしまった母と、あまりの怒りと驚きに呆然としている父を心配しながらも親の決めた婚約者にあっさりと婚約解消を告げると、実家ではなく自宅にある私物をほとんど売り払って現金にし、コネと人脈を使ってシェルサーラまでの片道航宙券を買い、残りはほとんど星の緑化委員会と孤児院に寄付してしまった。
 その間、たったの二週間。
 マスコミは騒ぎ立て、民衆は驚き、軍は慌てふためいた。ゆくゆくは史上最低齢で軍の最高司令官になるだろうと言われているほど有能な若き軍師が、全宇宙中で最も厳戒態勢のとられている侵入不可特別保護区域から無事帰還したかと思ったら、突然軍を辞めて星を離れると言い出したのだから無理もない。あまつさえ、星を離れてほかの星に住むならまだしも、二度と帰らないだろうとまで言ったのだ。
 どこかの他星系か連合軍からの引き抜きかと考えて軍は独自で調べたが、すべて白で、結局はマスコミの報じた『楽園で見つけた運命の恋』が真実だと知ったとき、十二人の提督のうち、八人が倒れ、参謀長官殿はストレス性胃潰瘍で入院してしまった。辛うじてまさかと苦笑しただけだった軍の若き最高司令官ディーン・クロウがとりあえず自分の後釜に据えるなら彼だと考えていた少年将校を呼び寄せてどうにか考え直すように言ったが、アークは笑みを浮かべたまま、消して縦に首を振ることはしなかった。
 そうして、シェルサーラから帰ってきて三週間目の土曜日。とうとうアークは片道しか運航しない(もともとシェルサーラ行きの船などないので、アークが無理を言った)シェルサーラ行きの船に乗った。
 見送りに来たのは総勢二千百三十人。第五艦隊の隊員がほとんどだが、軍最高司令官もようやく退院した参謀長官と十二人の提督を引き連れて顔を出した。あとは両親とウォート、九人の弟妹と、知己の親友が七人だ。
「じゃ、みんな元気で」
 少しの衣服と家族の写真、ポラロイドカメラとそのフィルムを数個入れただけの小さなリュックだけを持って、すべての民衆に愛された、元第五艦隊の艦長であり、名門ブライゼータ侯爵家の次男であるアークラウド・ブライゼータは、最後に一つ手を振って、小さな船に乗っていった。
 アークをのせた船は起動するなりあっという間に宇宙の闇に消えていった。
 これから先、弟がこの地を踏むことはなく、あの緑の大地を歩んで生きていくだろうことを思いながら、ウォートはどこかうらやましいような気持ちで、虚空を見つめた。








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こんな男いたら、ある意味嫌だなぁと我ながら思います。


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