Robinson's cherry
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 デッキの座席はこんなにも無機質で冷たいものだったのかと思いながら、ウォートは目の前の座席にいる弟の背を見つめた。
「第五艦隊、これよりシェルサーラ星より離陸する。操縦席、準備はいいか」
『イエス、サー』
「通信席」
『イエス』
「よし。第5艦隊艦ケルビム、離陸開始」
 アークの指示で、フィイイインと、エンジンが起動する音が艦内中に響き始める。
 やがて一瞬の浮遊感のあと、目の前のビッグモニターに、ぽかりと闇が映った。
「ビクター、迂回してシェルサーラ星をモニターに」
『了解』
 声と共に艦が迂回して、モニターに青と白と緑だけで彩られた宝石が映る。
 どんな合成宝石より、どんな人工石より美しい、宇宙の楽園。あそこはすべての技術から遠く離れて唯一自然体で生きている場所だった。
 偽りのない人々の表情や、生き生きとした自然が奇跡のように残っていた、最後の楽園だった。
「全乗艦員に告ぐ。全員、シェルサーラ星に敬礼!」
『イエス、サー』
 艦長の指示を受けて全員が座席や持ち場から立ち上がり、モニターや円窓から見えるシェルサーラ星にたいして、最高敬礼をとった。誰も敬礼をしない乗艦員は誰一人としていなかった。楽園に墜ちた全員の心に大きく残る星だったのだ。
 一分ほど敬礼をしていたが、その静かな空気を破ったのはアークだった。
「ケルビム迂回。第五艦隊発進」
『イエス、サー』
 それぞれが手を下ろして感慨深げにシェルサーラを見つめ、やがて持ち場や座席に戻っていく中、ウォートはモニターに映る、もうやがて見えなくなるシェルサーラの青を見つめていた。
 淡く闇の中に浮かび上がるように星の大部分を占める青は、腕の中からするりと抜けていったあの美しいジンギョ族の、しなやかに濡れた双眸と同じ色だった。
 ウォートだけのものだった、たった二つの宝石の色だった。




 抱きしめて、祈りを捧げるからだは目の前にない。
 だけど祈りだけは遠く、海の深くまで届いて。
 ―――幸せを。

 だけど祈りだけは遠く、深淵の空へと響いて。




 潮騒が静かに途切れてはまた繰り返す砂浜で、澪はきらめきながら一瞬で空の彼方に消えていった艦隊を見つめていた。
 波にたゆたう薄く青いひれの周辺は、美しい金青の鱗がはがれて血がにじんでいる。ひどく海水は染みているだろうに、澪は一向に気にする風もなく、ただ波に揺られるままにまかせている。
 なにもない空を見つめたまま、澪は動かなかった。








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デッキのイメージはアレです、今人気のガン●ムです。


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