Robinson's cherry 8











 






「ウォート」
 晴れた空だった。
 すっかり直った艦体を手のひらでひとなでしたウォートを、後ろから呼び止める声がした。振り向くと、雫が立っていた。
「準備は終わったの?」
「ああ。もともとなにも持ち込んでないし。買った本を積み込んだら終わった」
 駄賃としてもらった金で買った本が数冊あったので、それを艦内の自室に積み込んだらあとはなにも荷物はなかった。ウォートとしてはすっかり騎馴れた腰布と二股、それに革靴あたりを持ち帰りたいと思ったのだが、あまり多くを持ち帰ると思いが残ってしまう。なので結局は本だけを自室に積み込んだ。
 向こうで忙しそうに積み込みや挨拶をしている乗艦員を見ながら、ウォートはここを離れたらもう二度と座れそうにない、自然の芝生の上に腰を下ろした。
「雫とも…お別れだな」
「うん…元気でね、ウォート」
「雫も元気で。一生忘れないよ」
 忘れることなど、ないだろう。
 この星で過ごした一ヶ月間は、長いようで実に短かったが、死の間際まで残るに違いない。
 泣きそうに瞳を歪ませた雫を、弟に見られたら嫉妬されて怒鳴られるとわかっていながら抱き寄せると、その頬に軽くくちづけた。
 ―――幸あれ。
 この星の儀礼だ。別れ行く友人や恋人、大切な者の頬にキスをするのだ。そうして互いの未来を祈る。
 ―――雫に、この星すべての住人に、幸あれ。
 ウォートからの祈りを受けて、雫もウォートに返す。
 祈りが終えるとどちらからともなく身を離して、雫は目のふちを拭った。
「兄貴、雫!」
 アークが向こうから呼んだ。
「みんな積み終わった。挨拶するから、集まってくれ」
「わかった」
 返事を返して、芝生を撫でる。自生している植物になど、もう二度と触れる機会はないだろう。
「行こっか、アークが呼んでる」
 雫に促されて立ち上がると、ウォートは駆けていく雫の背を見ながら、胸が痛むのを感じた。
 とうとう、この星から離れるときが来たのだ。








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微妙に浮気なカンジのウォートと雫です。
雫は書きやすくていいなぁ…楽です、この子は。


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