君がため 10

























 暗闇の中、穂摘は目を瞑っていた。
「髪も…まあ、生えてきたな」
「ほん、おう?」
「ああ」
 夜陰に浸った深夜、穂摘の首から上の布が換えられた。身体は夕方に布を換えるが、顔だけは夜だ。
 殊更丁寧な手付きで、布で覆われたままの目許以外にまんべんなく薬を塗りつけた志郎は、するすると慣れた手つきで穂摘の顔に布を当てた。
「ひよあん」
「なんだ」
 温度の低い大きな手のひらで頭を軽く持ち上げられ、丁寧に布が肌を覆っていく。ぺたりとした感触をどことなくくすぐったく感じながら穂摘が志郎を呼ぶと、穏やかな声が応える。
 常に視界を布で覆われている穂摘は、まだ一度も志郎の顔を見ていない。瞼の辺りの火傷が酷いからと志郎が布を取らないためだ。
「め」
「…まだ、だめだ。瞼の火傷も酷かった。…光は目に悪い」
 小さな声で目と言っただけで志郎は歯切れの悪い声を出した。
(そんなに悪いのかな)
 大丈夫だろうかと心配にもなるが、世話を焼いてくれる志郎に逆らってまで目を開けようとは思わない。早く良くなればいいのにと考えていると、目元の布がそろりと取り払われる感触がした。
 ひいやりとした夜の空気が、治療中の肌にしんと沁みるようだ。
(あ、手…?)
 瞼を閉じたままの穂摘の目の上を、大きな何かが覆おうとしている気配がした。闇が濃くなる。
 夜なのだから、明かりなど障子越しにぼんやりと漂う月光か、もしくは行灯に燈る小さな火くらいのものだ。その程度のものからさえ守ろうとしてくれる志郎の細やかさは、今まで両親と重蔵親子くらいしか交流のなかった穂摘の胸に、小さな波紋を刻む。
 すっと胸に広がってじわりと滲みこんでいくものがなにかわからないまま、そっと瞼に薬を塗る手のひらに安堵して、穂摘はうとうとと夜陰よりも更に暗い眠りの淵に落ちていった。

























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短い…も少し肉付けしてからupするべきだと思いつつupしてしまうのです…orz