君がため 5

























 ちゃんと生きているだろうか。
 抱いた人間が動かないことを気にしながら樹の洞からのそりと出てきた彼は、ゆったりと道を歩き出した。踏みしめられて出来た道を少し行くと山裾に広がる村に出る。のんびりと歩いて村の一角にある小さな庵についた彼は、動かない布の塊をあがりかまちに置いた。
 そう広くはない庵の隅に大量に山になっている藁を平に敷いた彼は、その上に人間を移動させた。ぴくりとも動かない人間は、もはや肉と布の塊にしか見えなかったが、どうやら口と思しき布の隙間からは、虫の息が漏れていた。
 とりあえずはまだ生きている。
 呼吸のたびに口元の布が僅かに動くのを横目で見ながら、引き戸を引いて隣の部屋へと入る。二畳ほどの小さな部屋は、四面の壁全てが引き出しになっていた。部屋の隅に三つほど重ねて置いてある人の頭ほどのすり鉢を取り、六百ほどもある引き出しの中からいくつかを引いて、中から薬草や茸、木の実を入れていく。なんらかの尻尾だか脚だかの干からびたものも取ると、最後にすりこぎを引き出しから取り出して部屋を出る。
 人間は相変わらず荷物のように転がったままで、意識を取り戻している様子もない。ことりと静かにすり鉢を置き、彼は大きく伸びをした。梁に手がつくほど伸びをしたと思ったら、するすると彼は縮み、やがて六尺ほどの大きさになった。先ほどまでは布の塊の二倍はあった身長が、数寸ほどの差になると、彼の巨大だった身体で狭く感じた庵も、そこそこ動けるほどの広さになる。肩を揺らして関節をこきりと鳴らして、彼は先ほどまでぶよぶよとした愚鈍な巨体だったとは思えないほど軽やかに人間の傍に座り込んだ。
 あぐらを掻いた脚の間にすり鉢を置き、中に折り重なった薬草や実、なんらかの欠片をごりごりと擂る。時折すり鉢をごとごとと叩いては粉末になりつつあるものを底の方に集め、またすりこぎを回すのを五度ほど繰り返すと、様々に入っていたものたちは全て粉となった。
「……」
 さらさらとした粉をすりこぎでぼふぼふと叩きながら布の塊に視線を移すと、幸いなことにまだ生きているようだった。
(助かると、いいが…)
 薬粉を作る彼は、名うての薬師だった。だが薬が効く限度はある。効果があればいいと願いながら、持ち帰った瓢箪を傾けてすり鉢に水を注いでいく。粉と水は互いに滲みこみあい、どろりとした薬液となった。それを確かめると彼は重々しい仕草で腰をあげ、虫の息で生命を繋いでいる塊に寄った。そして、ずるりとした感触をものともせずに布を剥いだ。
「っいぃひぃいィぃいい…ッ」
 途端、かすかな呼気を零すにも苦労しているようだった唇から、隙間風のような悲鳴が漏れた。
「すぐ、終わるから…」
 悲鳴をあげながらも抗うことすら出来ずに、途切れそうに細い断末魔をあげる塊へ宥めるように言いながら、彼は布の下から現れた、焼け爛れた皮膚に薬液をなすりつけた。赤黒い肉に濃緑の薬液が付着し、見るに耐えない光景になる。それでも目を逸らさず、ゆっくりと布を剥いでは薬液を塗りつけ続けた彼の家からは、絶えず悲鳴が漏れ続けた。
 やがて声が途絶えたのは、日が落ちてからのことだった。



























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あまり展開のない感じですいませんすいません。